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zoom RSS ヤン・イーの『時が滲む朝』を読む

<<   作成日時 : 2008/08/26 17:36   >>

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今日は昼から○○センターに出かけて、居眠りしながら約3時間かけて、第139回芥川賞の楊逸(ヤン・イー)さんの『時が滲む朝』を読みました。

文化大革命で下放されて中国西北部に住みついた北京大学出身の小学校教師を父に持つ浩遠さんが主人公で、まずは友人の志強と大学入試に挑みところから始まります。

秦漢大学に合格した2人は希望に燃えて学生生活を送り、文学サロンのサークルに入ります。そのサークルが次第に民主化運動に傾斜し、2人とも深く考えることなくデモに参加し、ついには拘束されて、せっかく入った大学を退学させられてしまいます。(このあたりは60年安保でわけもわからず国会周辺のデモに参加したノンポリのわが青春と重なります。)

その後、妹と同居して中国で高校生活をしていた中国残留孤児の娘・梅と結婚し、日本に渡ります。日本語学校に通い、アルバイトをしながら、やがては正社員として日本の社会に受け入れられ、櫻と民生という一男一女にも恵まれます。 (ここは日本に来て生活する多くの中国人の体験と同じでしょう。)

少し違うところは、主人公の浩遠は日本でも天安門の民主化運動の流れをひきづっていることです。日本でも天安門民主化運動グループに属し、民主化されない中国への香港返還に反対し、オリンピックの開催にも反対して署名集めなどをしますが、日本でのこうした運動はいっこうに盛り上がらず、参加する人たちも次第に減っていきます。またこの人たちも必ずしも純粋とは限らない、純粋には生きられないことも知らされます。

中国に残った友人の志強は中国でアート工房を立ち上げ、それなりに成功します。

フランスに亡命した民主化運動の指導者で恩師の甘教授、同じくフランスに亡命した民主化運動中の男子学生のマドンナ英露、この2人もそれぞれの時を刻んで、英露はフランス人との間に生まれた淡雪を連れて甘教授と結ばれます。

中国民主化の指導者であった甘教授もいまやその理想もしぼみ、中国にもどって田舎で小学校の教師になろうと考えるようになり、英露らを連れて日本経由で中国へ帰ることになります。日本で浩遠と再会します。

最後は日本で再会した浩遠は家族4人が甘教授と英露と淡雪3人を成田で見送る場面です。そして別れのときに浩遠がどん底生活をしていたときに何度も聴いた尾崎豊の「I love you.」のCDを甘教授に贈ります。

以上がこの小説のあらすじです。


ところで、この作品のまえに受賞者インタビュー「天安門とテレサ・テンの間で」という記事があり、サブ・タイトルに「5歳で下放され22歳で来日。がむしゃらに走りつづけた波乱万丈の半生」とあり、読んでみたら、44歳の作者の楊逸さん、日本に来てからは日本語学校とアルバイト、大学で地理学を勉強し、日本人と結婚し1男1女をもうけるも、離婚。中国語教師をしながら子育てをし、小説を書くといういろいろある人生でした。この記事の中で、楊逸さん、「日本人と中国人の違いをどんなところで感じますか」という質問に、こんなふうに答えていました。

「たぶん性格ですね。友人から、あなたみたいにいろんなことがあったら、もうとっくに自殺しているよって言われますが、私はなんでもないんです。神経が太いというか、無神経だから(笑い)。

日本の方には、温かいところがたくさんあります。中国人には無神経なところがあるから、日本人のこまかな気遣いになかなか気づかない、申し訳ないんですけど。

でも、日本人はみな真面目で、なんでも重く受け止めすぎますね。もっと楽観的で、無神経にならないと、生きていくのが難しいところもあるんじゃないでしょうか。」




10代、20代を除いて、その後はほとんど小説なんか読まない私、これではいけないかと時に芥川賞だけでもと思って、この賞の受賞作品だけは読むように心がけてきました。しかし、いつごろからでしょうか。女の子がびっくりするようなことを書いたり、時代感覚がないからでしょうが、読んでいてもいっこうに内容が頭に入らず、もう長年読むのをあきらめていました。

それでも、前回の川上未映子さん、歌手として、シンガーソングライターとして活動しながら小説も書いているというので、どんな作品かと、その受賞作『乳と卵』(チチトラン)を読んでみることにしました。

初潮を迎える直前で無言を通す娘と豊胸手術を受けようと上京してきた母親、その妹である「わたし」の3人が、三ノ輪のアパートで過ごす三日間の物語だそうですが、話の筋ならなんとか理解できますが、会話の微妙なやりとりとなると高度すぎて、そのおもしろさがいっこうにわからず、我慢して2時間くらいは読んだのですが、とうとう途中で読むのをあきらめてしまいました。


それに比べたらこの『時が滲む朝』は、私には理解しやすく、途中居眠りはしたものの、最後まで読み通すことができました。

感激することのほとんどない年齢ですから、これを読んでとくに感動したということはありませんが、文学というものはある人の生き方が正しいかどうかが問題ではなく、その人が自分の半生なり、一生なりを振り返ったときに感じるある種のはかなさ、そんなものを描くものなのだろうかなあ、そんなことを感じさせる作品ではありました。

ところで、ここ100年、中国で生まれ、中国で生きる人々は、日本人とはまた違った人生を送らざるをえななかったことでしょう。この作者の半生もまた、インタビュー記事によれば前書きにあるように、この小説の主人公に劣らず“波乱万丈”の半生ですが、成熟社会、平和国日本のぬるま湯につかる日本人に比べたら、“激流”、”激動”の政治の波に翻弄されて生きる現今の中国人は、たいていが“波乱万丈”の人生なのではないか、とも思いました。

それにしても、日本人が中国人の書いた中国人の半生の物語に賞を与えたり、それを熱心に読んだりするのはなぜなのでしょうか、そんな疑問も感じながらこの小説を読み終えました。



≪蛇足≫
もうすぐ末期高齢者なのですが、私も尾崎豊はいい青年だと思うし、「I love you」はいい歌だと思っています。

中国残留孤児の娘で後に浩遠の妻となる梅からもらった尾崎のCDは、希望に満ちた大学生活から一転農民工になった浩遠と志強の心を打つ歌でした。この小説の中で、この歌を聴いたときの浩遠の感想を以下のように描写しています。

「意味のわからない歌詞が胸の共鳴をおさめることもなく、「I love you」と叫び出した瞬間、コンクリートのような何かで固められた己が、どんどん買われて崩れ落ちていって、あっと言う間にガラクタと化してしまう。曲が終わって暫くすると我に戻って、壊れたはずの己が新たな形を成して、身体も妙にすっきりして軽やかになる。」


それでは尾崎豊の歌声を聴いてみましょう。
http://jp.youtube.com/watch?v=ERWYegcKF8o

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